第三十九話 引っかかり
2014.11.20.Thu.07:55
社長の碓氷とルームシェアをはじめて数日が経ったある日の夕方、碓氷と蜷川はまたしてもふたりで連れ立ってどこかへ出かけてしまった。愛莉は事務所を出て行くふたりのうしろ姿を見送りながら、向かいのデスクで帰り支度をしている塩野谷に話しかける。
「あの、塩野谷さん。社長と蜷川さんって、その……どういう関係なんでしょうか。よくふたりでお出かけになってますよね。なんだかすごく親しそう」
「ん?ああ……まあ、ふたりは特別な関係だよね」
「え……っ⁉︎ それって、どういうーー……」
愛莉が身を乗り出したときだった。塩野谷は携帯電話を片手に持って、
「あ、ごめん電話だ。彼女から」
ニヤニヤしながら電話にでる塩野谷。デートの約束をしていたようで「今からすぐに行くねん!」と気味の悪い猫なで声を発しながら愛莉に手を振って、そそくさと帰ってしまった。
(特別な関係って……そんな……)
モヤモヤした気分のままオフィスの3階へ向かう。碓氷が帰ってきたら、今度こそきちんと聞いてみよう。悩んだ挙句にようやくそう決意したのに、ほどなくして彼から送られてきたメールにはしばらく家を空けるという旨が書かれていた。
それからさらに数日後の夜、愛莉は碓氷に誘われてグループ会社合同の飲み会に赴いた。定期的に開催されている宴の席だ。愛莉は広い座敷の隅のほうに碓氷と一緒に並んで座っていた。
「会社以外でお会いするの、久しぶりですね」
「ああ、そうだな……。今日もそっちには帰れないんだが、ひとりで平気か?」
「……大丈夫、ですよ」
ここのところ碓氷は多忙なようだった。実家に寝泊まりして、本社の社長である彼の父親と仕事の話をしているらしい。内容までは語ってくれず、こちらからも聞かなかった。
「あ……っ、嶋谷さん!」
遠くから名前を呼ばれて振り向く。声の主は本社にいたときの後輩、今藤 静香(いまふじ しずか)だった。そういえば以前、わざわざいまの会社まで忘れ物を届けに来てくれたこともあった。
「おとなりいいですか?」
「うん、もちろん! あ、碓氷さん。こちらは本社勤務の今藤さんです」
「……どうも」
碓氷はどことなく不機嫌そうに言った。碓氷が名乗らないので、愛莉が彼を紹介する。静香はコワモテの碓氷に少したじろいているようだった。
「ところで嶋谷さん、いまはどんなお仕事をなさってるんですか?」
「へっ!? ああ、えーーと……」
言いよどむ。大人のおもちゃを販売する会社だとは言いづらかった。何かうまいことごまかせないかと言葉を探る。
「……言いたくないのか?嶋谷くん」
左どなりにあぐらをかいて座っている碓氷がうなるように言った。愛莉はそんな彼を見て萎縮する。不機嫌どころではない、完全に起こっているようすだった。愛莉がいまの仕事内容をすぐに答えなかったからだろうか。
「あ、の……その」
静香は愛莉たちのやりとりを見て何か察したのか、
「あっ、そうだ……嶋谷さん、私の同期が結婚することになったんですよ!それでーー……」
気を遣って話題を変えてくれたようだった。愛莉は「うん、うん」と相づちを打ちながら後輩の話に耳を傾けていた。すると、
「……俺は先に失礼する」
唐突に席を立った碓氷は、すぐにスタスタと出口のほうへ歩いて行ってしまった。
「あ……お疲れ様でした」
うしろ姿にそう呼びかけながら、愛莉はまたひとつモヤモヤとしたものを心に抱えるのであった。
第三十九話 終
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「あの、塩野谷さん。社長と蜷川さんって、その……どういう関係なんでしょうか。よくふたりでお出かけになってますよね。なんだかすごく親しそう」
「ん?ああ……まあ、ふたりは特別な関係だよね」
「え……っ⁉︎ それって、どういうーー……」
愛莉が身を乗り出したときだった。塩野谷は携帯電話を片手に持って、
「あ、ごめん電話だ。彼女から」
ニヤニヤしながら電話にでる塩野谷。デートの約束をしていたようで「今からすぐに行くねん!」と気味の悪い猫なで声を発しながら愛莉に手を振って、そそくさと帰ってしまった。
(特別な関係って……そんな……)
モヤモヤした気分のままオフィスの3階へ向かう。碓氷が帰ってきたら、今度こそきちんと聞いてみよう。悩んだ挙句にようやくそう決意したのに、ほどなくして彼から送られてきたメールにはしばらく家を空けるという旨が書かれていた。
それからさらに数日後の夜、愛莉は碓氷に誘われてグループ会社合同の飲み会に赴いた。定期的に開催されている宴の席だ。愛莉は広い座敷の隅のほうに碓氷と一緒に並んで座っていた。
「会社以外でお会いするの、久しぶりですね」
「ああ、そうだな……。今日もそっちには帰れないんだが、ひとりで平気か?」
「……大丈夫、ですよ」
ここのところ碓氷は多忙なようだった。実家に寝泊まりして、本社の社長である彼の父親と仕事の話をしているらしい。内容までは語ってくれず、こちらからも聞かなかった。
「あ……っ、嶋谷さん!」
遠くから名前を呼ばれて振り向く。声の主は本社にいたときの後輩、今藤 静香(いまふじ しずか)だった。そういえば以前、わざわざいまの会社まで忘れ物を届けに来てくれたこともあった。
「おとなりいいですか?」
「うん、もちろん! あ、碓氷さん。こちらは本社勤務の今藤さんです」
「……どうも」
碓氷はどことなく不機嫌そうに言った。碓氷が名乗らないので、愛莉が彼を紹介する。静香はコワモテの碓氷に少したじろいているようだった。
「ところで嶋谷さん、いまはどんなお仕事をなさってるんですか?」
「へっ!? ああ、えーーと……」
言いよどむ。大人のおもちゃを販売する会社だとは言いづらかった。何かうまいことごまかせないかと言葉を探る。
「……言いたくないのか?嶋谷くん」
左どなりにあぐらをかいて座っている碓氷がうなるように言った。愛莉はそんな彼を見て萎縮する。不機嫌どころではない、完全に起こっているようすだった。愛莉がいまの仕事内容をすぐに答えなかったからだろうか。
「あ、の……その」
静香は愛莉たちのやりとりを見て何か察したのか、
「あっ、そうだ……嶋谷さん、私の同期が結婚することになったんですよ!それでーー……」
気を遣って話題を変えてくれたようだった。愛莉は「うん、うん」と相づちを打ちながら後輩の話に耳を傾けていた。すると、
「……俺は先に失礼する」
唐突に席を立った碓氷は、すぐにスタスタと出口のほうへ歩いて行ってしまった。
「あ……お疲れ様でした」
うしろ姿にそう呼びかけながら、愛莉はまたひとつモヤモヤとしたものを心に抱えるのであった。
第三十九話 終
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